極低温赤外フォトルミネッセンス測定装置
MIRPL-532-LT

極低温赤外フォトルミネッセンス測定装置 MIRPL-532-LT
 
フォトルミネッセンス(Photoluminescence, PL)法とは、物質に光を照射して電子を励起し、 その励起電子が基底状態へ遷移する際に放出される光(ルミネッセンス)を分光・検出することにより、 材料中の電子状態や欠陥、不純物レベルを非破壊で評価する手法です。発光スペクトルのエネルギー位置や強度、 スペクトル幅などの解析を通じて、材料のバンド構造、格子の完全性、微量不純物分布などを把握することができます。

本装置は、532 nmレーザーを励起光源として搭載しており、 主に赤外領域の発光を測定対象としています。 赤外領域で発光するデバイスや近赤外波長領域での光検出デバイスの特性評価に適しています。

本装置はクライオスタットを搭載しており、試料を4 Kまで冷却して極低温環境を実現することで、極低温赤外フォトルミネッセンス測定が可能です。これにより、室温では観測が困難な微細な発光構造や励起子発光の詳細な解析が可能となります。

測定によって以下のような情報を取得できます:
  • バンドギャップエネルギーの算出(中小バンドギャップ材料に対応)
  • 束縛励起子・自由励起子による発光の検出
  • ドナー・アクセプター不純物の濃度推定
  • 格子欠陥や界面欠陥の非破壊検出
  • エピタキシャル成膜プロセスの評価
非接触・非破壊での評価が可能なため、材料開発から量産検査、信頼性評価まで、 幅広い工程での特性評価に有効なツールです。

■仕様

励起波長 532nm
測定波長範囲 600nm〜10,000nm
温度範囲 4-300K
励起波長クリーンナップ プリズム分光方式
分光器 FT-IR分光測定装置

※本仕様および外観は改善のため予告無く変更することがあります。

■フォトルミネッセンス(Photoluminescence, PL)の基本原理

フォトルミネッセンス(PL)は、物質に高エネルギーの光(励起光)を照射することで、価電子帯に存在していた電子が励起され、伝導帯などの高エネルギー準位に遷移した後、再び基底準位へ戻る過程において放出される光(フォトン)を検出・解析する光学的手法です。この現象は、主に半導体材料や蛍光体などにおける電子状態の評価や材料品質の診断に広く利用されます。

図に示すように、基底準位(多くの場合は価電子帯上端)にある電子は、外部から照射される励起光のエネルギーを吸収し、より高いエネルギー準位(典型的には伝導帯)に励起されます。これにより、電子と正孔の対が形成されます。

基本原理の図

しかしながら、励起された電子は即座に再結合して放射遷移を起こすとは限りません。多くの場合、再結合に至る前に、以下に示すような緩和機構を経由することがあります。

  • 非放射緩和(Non-radiative Relaxation): 励起された電子が格子振動(フォノン)との相互作用を通じて熱エネルギーとしてエネルギーを失う過程です。この過程では光子は放出されません。
  • 準位捕獲(Trapping by Defect or Impurity Levels): 結晶格子中に存在する欠陥あるいは不純物によって形成された中間準位に一時的に電子が捕獲され、そこから再び基底準位へと戻る際に、バンドギャップよりも低エネルギーの光が放出されることがあります。

このような過程により、PL測定で観測される発光スペクトルは、必ずしも入射光子のエネルギーとバンドギャップのエネルギー差をそのまま反映するわけではなく、物質内部における多様な緩和経路の影響を受けることになります。

PLは、試料に非接触・非破壊で適用できる高感度な評価手法であり、バンド構造やエネルギー準位の解析に加え、結晶性、欠陥密度、不純物分布などの情報を包括的に取得可能です。特に半導体デバイスの材料開発や品質管理、量子ドット・低次元構造の評価において重要な技術として位置づけられています。

■内部量子効率(IQE)とは

内部量子効率(Internal Quantum Efficiency, IQE)とは、半導体中で生成されたキャリア(電子・正孔)のうち、 放射再結合(光として放出)した割合を示す指標です。

定義式:
IQE = 放射再結合したキャリア数 / 全再結合キャリア数

IQEは材料や構造における非放射再結合の影響を評価する上で重要な指標です。

■低温PL測定による相対的内部量子効率(IQE)の評価方法

この方法では、低温(通常10 K前後)でのPL強度を放射再結合による最大発光とみなし、 室温(300 K)でのPL強度と比較することで、相対的な内部量子効率(IQE)を算出します。

前提条件:
・低温では非放射再結合が抑制され、放射再結合が支配的である。
・したがって、低温でのPL強度は理想的な発光強度(最大値)とみなせる。
・室温では非放射再結合が増加し、PL強度が低下する。

相対IQEの近似計算式:
IQE300K = I300K / I10K

ここで、
I300K:室温でのPL積分強度
I10K:低温でのPL積分強度(最大発光)

この方法で得られるIQEは相対値であり、絶対値ではありませんが、 温度による非放射再結合の影響を評価する上で非常に有効です。

■低温PL測定による内部量子効率(IQE)の算出ステップ

  1. PLスペクトルの温度依存測定
    クライオスタットを用いて試料を冷却し、10 K(またはそれ以下)から室温(300 K)まで複数の温度でフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを測定します。
  2. PLスペクトルの積分強度を算出
    各温度におけるPLスペクトルを波長ごとに積分して、PLの総強度(積分強度)を求めます。
    I(T) = ∫ PL(λ, T) dλ
  3. 相対IQEの計算
    室温(300 K)における積分PL強度 I300K と、低温(10 K)における強度 I10K の比から、相対的なIQEを計算します。

    計算式:
    IQE300K = I300K / I10K

    ここで、
    I300K:室温でのPL積分強度
    I10K:低温でのPL積分強度(最大発光)

    この比は、温度による非放射再結合の影響を示す指標となります。なお、この手法で求まるIQEは絶対値ではなく、あくまで相対評価となります。
  4. 非放射再結合の評価(オプション)
    PL強度の温度依存性から非放射再結合の活性化エネルギーを抽出するには、Arrhenius式に基づく解析を行います。
    I(T) = I0 / (1 + C × exp(-Ea / kT))
    ここで、
    Ea:非放射過程の活性化エネルギー
    k:ボルツマン定数

■外部量子効率(EQE)とは

外部量子効率(External Quantum Efficiency, EQE)とは、半導体デバイス(例:LED、太陽電池)から 外部に放出された光子の数と、注入または生成されたキャリア(電子)の数の比率を示す指標です。

定義式:
EQE = 外部に放出された光子数 / 注入された電子数

EQEはデバイスとしての実際の発光効率を表し、測定には積分球などを用いた絶対PL測定や電気駆動下での測定が使われます。

■積分球による外部量子効率(EQE)の測定方法(2π測定)

外部量子効率(EQE)は、積分球を用いてデバイスから放射される光(分光放射束)を測定し、 注入された電子数と比較することで算出できます。ここでは、積分球が測定する「2π方向(前方半球)」の放射束を用いた手法を説明します。

  1. 積分球による分光放射束の測定
    積分球を用いて、デバイスが放射する光の分光放射束 Φλ [W/nm] を測定します。 測定された波長ごとの放射束を元に、放出された光子数を算出します。

    光子数の計算式:
    Nphoton = ∫ (Φλ × λ) / (h × c) dλ
    ここで、
    λ:波長 [m]
    h:プランク定数
    c:光速
  2. 全方向への補正(4π換算)
    積分球は前方半球(2π立体角)の光のみを測定します。発光が等方的(ランバート放射)であると仮定すると、 全空間への放射光子数は測定値の2倍と近似できます。

    Ntotal ≈ 2 × Nphoton
  3. 注入された電子数の算出
    デバイスに流した電流 I [A] から、単位時間あたりの電子数を求めます。

    Nelectron = I / q
    ここで、q = 1.602 × 10-19 C(電子の電荷)
  4. 外部量子効率(EQE)の算出
    全方向に放出された光子数と注入電子数の比から、EQEを計算します。

    EQE = (2 × Nphoton) / Nelectron
    または、
    EQE = (2 × Nphoton × q) / I

    これにより、積分球測定を通じてデバイスの実際の外部発光効率を評価できます。

■外部量子効率(EQE)と内部量子効率(IQE)の関係

EQEとIQEの間には、以下のような関係式があります:

EQE = IQE × ηout

ここで、
ηout は光取り出し効率(Light Extraction Efficiency)であり、
発光層内で生成された光子のうち、実際にデバイス外部へ抜け出せる割合を示します。

取り出し効率は、屈折率差による全反射、デバイス構造(反射層やパターン加工)、光吸収などにより影響を受けます。

IQEは材料内部での発光効率、EQEはそれを含めた「実際に外に出る光」の効率であり、 IQEの最大値は100%ですが、EQEはそれ以下になるのが通常です。